800番のリクエストで「キサラギさんの食い辛抱ばんざい!」です。
とある休日…
僕はコレクションとして集めているヴィンテージバイクを駆って、イギリスに帰郷してきた。そして、今日の相棒はハーレーだ、この独特のエンジン音はやはりヴィンテージバイクならではということだ。
当然ながら、今日は僕一人だけ。
隊では、少尉…あの女の前で「少佐」を演じるのは毎日疲れる。その疲労感から今日は解放されるとなれば、どんなに嬉しいことか…。
「実家に帰るのはまだ時間があるから…、さて、どうしよか…」
おもむろに地図を取りだして現在位置を確認、無作為に暇潰しの場所を選んでみる。
ベルファスト、バーミンガム…、マンチェスター…、ここはベターにロンドンでも行ってみようか。
思ったら即行動に移し、エンジンをふかして再びバイクを走らせてロンドンを目指す。
数時間後、ロンドン。
「小腹が空いたな…、何か食べるか…」
ロンドンに着いたのは昼を少し回った時間、市街のレストランで軽く魚でも食べようかと思った。僕はあっさりしたもの好きで、肉みたいにしつこく脂っこいものは好きじゃないんだ。
「金はあるし、高いところを選んでも問題はない…が、ここは人がいるな。出来れば小さい店にしよう」
「それならいい店を知ってるわ?」
「…今日はたまの休みなのに、知ってる顔に会うとはね?」
「あら、私に会うのがそんなに不服かしら?えいゆうさん?」
「魔女が…」
魔女こと、吸血鬼レイチェルとロンドンの街で出会ったの偶然なのかは知らない。ただ、「知ってる顔」を今日は見たくなかったが、久しぶりのイギリス帰り、ここは彼女に任せよう。
「吸血鬼なのに人間の店を知ってるのか?」
「観光パンフにも載っていない穴場よ、味は保証するわ」
そう言って歩くと「その店」にたどり着く。
「看板が無いな」
「だから穴場なのよ?さあ、入るわよ」
カランカラン…
中はレストランというよりバーに近い雰囲気だか、逆にここの方が性(しょう)に合う。
「いらっしゃいませ、ご予約されたレイチェル・アルカード様ですね、お待ちしていました」
「予約…、ここの常連なのか?お前は?」
「そうよ、良く知り合いとの待ち合わせに使うの。ここはマスターの料理も良いし、通りからは離れてるから落ち着きも最高よ」
「なるほど、悪くはないな…」
案内された席は店の角、一番奥なのでもっともらしく壁には絵画が飾られ、絵はそれなりに高いだろうと思った。
「お待たせいたしました、アールグレイでごさいます。そちらのお客様は、シーフードパスタとサラダでよろしいですね」
「ああ、頼むよ」
「定番はナポリタンなのに、シーフード?」
「僕は肉が嫌いでね…」
ここまでは良かった…、あの赤いコウモリが余計な一言を言わなければ…。
「姫さま、来ましたッス」
「そう、ちょっと遅かったわね…」
「来た?一体だれがだ?」
「最初に言ったはずよ、知り合いとの待ち合わせに使ってるって?」
そう、彼女が待ち合わせた相手が悪かった。
まさか、ここにあいつと出会うなんて…
「あっ、少佐!」
「な…少尉、どうしてここに?」
「え…あぁ、ちょっとレイチェルに呼ばれて、イギリスにはちょくちょく行くんですよ」
「…お、ジンじゃねぇか」
「に…兄さんまで!」
ジン「小声(おい、少尉は兎も角、なんで兄さんまでいるんだ!)」
レイチェル「小声(誰を呼ぶかは私の勝手よ、あなたは偶然店を探していたところ出会ってしまっただけ…)」
悪夢だ…、少尉だけでも大変なのに兄さんまで…。
「ジン、お前相変わらず魚ばっかで寂しいな?」
「僕は兄さんみたいにガツガツと…」
「お待たせいたしました、サーロインステーキでごさいます。焼きかたはウェルダンでよろしかったですね?」
「おう!サンキュな、マスター」
「兄さん、ステーキは兎も角、どうして2つもあるんだい?」
やばい、「嫌な予感」が「危険信号」に変わってきた。逃げなきゃと思ったが、レイチェルが呼んだのは、少尉や兄さんだけじゃなかった。
「おい英雄、逃げんなよ!」
ガシっと、襟元を捕む手…。明らかに酔っ払いの声…。
「ら…ライチさん、飲みすぎですよ!」
酔うとオヤジ化する町医者ライチ、まさかレイチェルが呼んだ「年長者」がライチ(しかも酷く酔ってる)。せめてうるさいにしても、あの忍者の方がマシだと初めて思ったくらいに嫌な女だ。
「なーに、辛気臭せぇ顔になってんだ。俺がステーキおごってやるんだ、遠慮せず食えよ?」
「ラグナ、それは私のお金よ?」
悪のりなのか、本当に酔ってるのか、兄さんも酷く酔ってる。
マズイ、「危険信号」が「死の宣告」に…。
「ラグナさん、ライチさんもお酒飲みすぎですよ~(汗)」
なんで、こうなるんだ?
僕がいったい何をしたんだ?
誰か教えてくれ…
「ごめん兄さん、ちょっと電話がなってるんだ、席を外すね…」
「でんわ~?んなもん、ほっとけよ~、それよりビールまだか~」
「ライチさん!」
せっかく穴場だからと、静かな店だからと入ったのに…。
「お待たせいたしました、サーロインステーキでごさいます」
ステーキ?いったい誰が頼んだんだ?
ていうか、僕の目の前にあったパスタとサラダが、ステーキ2つになってる!
「おう、悪いなマスター。それさげてくれや」
「かしこまいりました」
「マスターって、兄さん!」
今実感した。「死の宣告」が「死の時間」になったことを…。
「さて、恒例の食わず嫌いタイム!」
「兄さん!」
「青二才、好き嫌いしてっと大きくなれねぇぞ!」
「ヤブ医者めぶぉっ!」
「しょ…少佐ぁ~!(汗)」
「ひ…姫さまぁ、いったいこれは…?」
「ギィ、これから面白いことが始まるわよ。マスター、今度はダージンを頂戴?」
「かしこまいりました」
…やられた。この騒ぎを面白おかしくしているのは、あの魔女でも、ヤブ医者でも、少尉でも、兄さんでもない。
やっているのは…
「お待たせいたしました、ご追加のサーロインステーキ特上でございます」
「では、行ってみようか、ジン?」
「に…兄さん…。…って、ちょっと待て!少尉、止めろ、兄さんを止めろ!命令だ!少尉!」
「少佐、ここはガンバです!」
「少尉ーっ!(怒)」
「ガタガタ言ってねーで、覚悟を決めろジン。男は肉を食ってなんぼだろ?」
「にぃーさーん!」
パクッ!
バタンっ!
あぁ…、天国だ…!
その後、意識を取り戻したのは数日後。
もちろん病室に贈られたのは…
「アメリカ産高級テキサスロングホーン牛ステーキ用肉……、by.ラグナ」
リクエスト内容は「弟に肉食わせる兄と嫌がる弟」で出演キャラはお任せと言うものでした。
オチとライチ(親父版)が面白かったです。皆さん、いきいき(ジンは瀕死)していて良い感じです。
管狐さん、ありがとうございました。
コメント
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いえいえ、こちらこそリクしていただき恐縮です。
またリクエストがございましたら、遠慮なくどうぞ。お待ちしています。
最後に遅れながら、あけましておめでとうございます。
では、失礼します。