雪月さんから100HITリクエスト

 キリ番内容は「負傷のまま、再びカグツチへ向かう決心を見せるジン」です。
 此のたびは、有難うございました。



 僕はこれからどうすればいいんだろう。
<決意>
 僕はどこかの階層都市の病院で寝ていた。
 病衣の下には兄さんにつけられた傷が残っている。
「兄さん……」
 『死神』と呼ばれる兄さん。ラグナ=ザ=ブラットエッジ。
兄さんは僕を倒した後、どうなったかは知らない。
あの後の僕は気づいたらこの病院に寝ていた。兄さんの傷によって動くことができず、兄さんに倒されたか何らかで僕の本来の人格が数日経っても出て続けた。
 僕が気を失った後、謎の爆発や巨大な魔法陣が現れたとか噂になっている。
 ノエル・ヴァーミリオン少尉も少しの間、行方不明だったが見つかり今では帰還する準備をしている。
 先日、少尉が見舞で持ってきた花を見る。男に花を贈るのはどうかと思うが、あの少尉は別に深い意味はないだろう。
あの時から、数日過ぎている。
僕はこれから帰還して相応の処置をされる。無断での単独行動だから、厳しい罰がくるだろう。
でも僕にとってはどうでもいい。単独行動をしたのは、兄さんに会いたかったから。
兄さんが元気かどうか見たかったから。
「兄さん、僕をすごく睨みつけた」
 あの時の兄さんは、僕をたいして怒りを感じていた。
 兄さんは僕を殺すまではいかないが、剣を振るった。
 そして、僕を傷つけた。
 兄さん……。
「良かった。兄さんが僕を許してくれなくて」
 僕はそのことが嬉しかった。
 兄さんに嫌われて当然のことをしたのだ。逆に嫌われなかったら僕は罪悪感に押しつぶされるだろう。
 僕の罪は重いものだ。辛いけど、一生背負い続けなくちゃいけないものだ。
 だから、もし、許されたりしたら。僕は恐れていた。
 兄さんは優しいから許したら本当にどうしようと。
 でも、甘い所があったけど許してはいなかった。
 それがわかって良かった。
 僕はそのために、兄さんに会ったのだから。
「兄さんと会うことは二度とないだろうな」
 僕は兄さんに会うつもりはない。
 ラグナ=ザ=ブラットエッジ。
 彼は今でもカグツチにいるのだろうか。それはわからないが。
「とりあえず、この傷を治さないと」
 僕は目を閉じる。
 ただ、過ぎてゆく日々に流れて。
*****
 僕は夢の中にいた。
 立っていると感じている時は大抵、夢を見ているのだ。
 いつもなら、幼少時の悪夢を見る。
 でも、いつも通りなのに違っていた。
 真っ黒じゃなくて真っ白だった。
 真っ白だけではなく、いくつもの線があちこちにあった。線はいくつも伸びていて、どこかにつながっているのだろう。
 僕は知っていた。この線は幼少の頃から見えていたものだ。
 線はどこかに一つの焦点につながっている。つながっている先が何なのかも何となくわかる。
 どこにつながっているのだろう。
 僕は、歩き続けて……。
 そこで目が覚めた。
 いつも通りの病院の中だった。
「あの夢は一体……」
「少佐。変な夢でも見たのですか?」
 声の方向を振り向くと、ノエル=ヴァーミリオン少尉が立っていた。
 また見舞いに来たのだろう。手にはフルーツが入っている籠を持っている。
 少尉の言葉に僕は一回、息をゆっくりと吐き出した。
「あぁ、ちょっと変な夢を。少尉は、僕の見舞いとかでなく、帰還準備をしなくていいのか?」
「大体の準備は終わりました。いつでも帰還はできます」
「なら、帰還すればいい」
「今は帰還できません。ええと……」
 少尉は目をそらしながら、何か言い訳を探すように考えていた。
 それでも、チラリと何回も僕を見ている。
「なるほど。僕と一緒に帰還しなくてはいけないわけだ。またいなくなられても困るから」
「しょ、少佐」
「別に僕は気にしていない。上がそこまで甘くないのもわかっている」
 まぁ、僕の部下にその任務を任せたのは実際に甘いが。
 僕に逃がされたくないのなら、何人もの監視をつければいいし、少尉が僕を逃がすという選択肢は考えていなかっただろうか。
「それより、すまないな。花だけではなく果物まで」
「別にいいんですよ! 少佐は、私よりも傷ついているのですからちゃんと治さなくてはいけません」
「わかっている。少尉のように早く治さなくてはな」
「は、はい。私は、少佐ほどの怪我じゃないから早く治ったというのもありますけど」
「仕方ない。あの爆発事故に巻き込まれていたんだ」
「たしかに。逆にあれだけの怪我でビックリしていますよ」
 笑いながら、少尉は言う。
 でも、知っている。少尉が嘘ついていることに。
 僕の傷はたしかに、多かったし深いのもあったので治るのに時間がかかる。
 対して少尉は、傷はそれなりにあったが深くはなかったのでもう回復している。
 爆発事故に巻き込まれた傷だと本部や僕に告げているが、本当は聞きたい。
 僕は気づいている。爆発事故に巻き込まれてできた傷じゃないことを。
 あれは誰かと戦ってできた傷だということがわかる。
少尉は、あの日のことを知っている。
 あの日、本当に何があったのだろう。
「で、何を食べます? 少佐は果物嫌いじゃないから色々と持ってきたのですが」
「別に少尉が食べたい物を決めていい。少尉も食べたいだろう」
「べべべべ、別に! 少佐のために買ったものでありますから」
「その返答は説得力がないぞ」
「うぅ……」
「かと言って、少尉が包丁で皮がむけるとは思ってはいない。蜜柑でいいだろう」
「できますよ!? さすがに、包丁で皮は向けますから!」
「無理だ。ツバキから聞いたぞ。前、ツバキが病気の時に部屋でリンゴの皮をむいていたが、結局は血によって赤くなったと」
「……」
 てっきり、更なる否定の言葉などが言われると思ったが少尉は俯いて黙っていた。
「少尉」
「……少佐。最近、ツバキに変化はありましたか」
「変化?」
「はい。一回、私達の無事をツバキに伝える電話をしたんです。でも、ツバキの反応がいつもより変で」
「変とは」
「私達の無事を喜んでいました。それでも、声が苦しそうに聞こえて」
「会ったのはずいぶん前だが、別におかしい所はなかったが」
「そうですか。……ツバキ、何かあったのかなぁ」
 少尉はツバキを心配していた。僕も心配だ。
 僕はツバキと幼馴染で、あの嫌いな家でも彼女がいて救われたことが何回もある。
 彼女が苦しんでいるなら、僕は助けたい。
(帰還したら、どうにかツバキと会って相談させるか)
 僕は思いながら、籠の中にある蜜柑を取り出した。ちゃんと少尉にも渡す。
「とりあえず、ここで考えても仕方ない。帰還してからじゃ行動ができない」
「それもそうですね」
「とりあえず、少尉。さすがに手でむく蜜柑を血にまみれることはないな」
「そこまで不器用じゃありません!」
 と言ったものの、血にまみれることはないが見事に中身をめちゃくちゃにし、無残な姿にさせたのは、さすが少尉だと思う。
 結局は僕がむいたものを少尉は食べた。すごく落ち込みながら。
 僕は微笑ましく見る。
 しかし、なんでだろう。自分で決めたことだ。
 決めたことなのに、帰還してはいけないとも思ってしまうのだ。
 理由は、わからない。
*****
 また夢を見る。
 前日と同じ、真っ白な夢。
 真っ白の中に、線が見える。線は、昨日より様々な色となっていた。
 今度こそ、焦点まで行くことができるだろうか。
 僕は歩き続ける。今回はすぐには目を覚まさないようで、結構歩く。
 更に線は増える。焦点に近づいているのはわかるが、まだまだ見えない。
 そこで、体が薄れているのに気付いた。
 今回はわかった。今日はここまでだということを。
「……ン」
「少ー佐。おはようございます♪」
「……!?」
 いきなりの誰かのドアップ顔に僕は少し頭を浮かせてすぐさま枕をつかんで投げた。
 近づきすぎた顔は見事に相手の顔面に当たる。
「痛!?……ひ、酷いですよ少佐。別にそこまでしなくてもいいじゃありませんか」
「ハザマ大尉」
「少佐、体の方は治っていますか」
「見ればわかるが」
「それもそうですね。しかし、少佐が倒れていたのでビックリしましたよ」
「戦ったが、死神の方が強かったということだろう。このまま殺されると思ったのがトドメはささなかったが」
「そのおかげで少佐は助かったのですからいいじゃないですかー。本当に少佐が死ななくて良かったですよ。あんな死神に殺されることがなくて」
「大尉……?」
 なんだろう。大尉の目が怖かった。
「あ、これ見舞いの果物ですか。これ一緒に食べませんか」
 大尉は昨日、少尉が持ってきてくれた籠を見ている。
 もう、大尉の態度はいつものに戻っていた。
「貰ったのは僕なんだが。別にかまわない。下にナイフがある」
「わかりました。すいませんねー。見舞いの品を持ってこなくて」
「持ってこなくてもいい」
「あ。じゃあ、このまま食べさせてあげ」
「大尉」
「じょ、冗談ですよー。少佐、すごく怖いです」
 僕が睨みつけると大尉はぶつぶつと果物の中の林檎の皮をむきはじめた。
 実際、むくのはうまかった。少尉のように血まみれにするのではないと心配したが、大尉はさすがにないみたいだ。
 僕は大尉が切った林檎(なんで切ったのがウサギの林檎)を食べていた。
「大尉はこれからどうする?」
「まだ、上からは聞いていませんですから。ここに留まるか帰還するかも知れませんし、任務でどこかに行くかも知れません」
「何も決まっていないと言えばいいじゃないか」
「まとめると、たしかにそうですね。で、少佐は……」
 遠まわりのように言う大尉は僕に向かって質問をした。
「知っているだろう。このまま傷が治してから帰還する」
「帰還ですか……」
「何かおかしいのか」
「いいえ。本当に帰還するんですね」
「疑っているのか。逃げたらダメなくらいわかっている」
「ならいいんです。少佐、私はまた単独行動をして怪我するのを恐れているのですよ」
「何……」
「心配しているんです。少佐は信じていないかも知れません。まぁ、帰還して罰はくるのでしょうが、キサラギ家の当主とも噂される少佐ですから厳しいものにはならないと思います」
「たしかにそうだが」
「というわけで、私はここらへんで失礼します。いいですか、ゆっくりと治してくださいね」
 大尉は手を振って、部屋から出て行った。
 僕を心配することはわかっていたが、理解できない。本当になんでだろうか。
 大尉の言葉が僕の頭に繰り返す。
『本当に帰還するんですね』
 もう、僕の目的は果たせたんだ。
 それなのに、段々とすぐに答えられなくなってきそうだ。
*****
 夢を見た。
 今日で三日目だ。
 変化が起こった。焦点が見えようとしていたのだ。
 僕は走って近づいた。
 知りたい。でも、知りたくない。
 僕の心は二つの思いがそれだった。
 知りたいと思う。その答えを、僕は小さい頃から探していた。
 知りたくないと思う。その答えが、僕の運命を決めてしまいそうで。
 近づいた瞬間、焦点がいきなり光った。
 眩しかった。思わず目を瞑った。
 目を瞑ったか、知りたくて目を開ける。
 見えたのは……
「……!?」
 僕は飛びあがるように起きた。
 汗が少し出ている。それをぬぐうが、動揺が隠せない。
 あの夢で、焦点が見えた。
 人がいた。二人、いた。
 一人はわからなかった。でも、もう一人は知っていた。
 知っているにもなにも、もう一人は
 兄さんだったのだ。
「なんで、兄さんなんだ……」
 わからない。わからない。わからない。
 なんで、兄さんなのか。兄さんの隣には誰なのか。
 隣はサヤではなかった。一体、誰なんだ?
 しかも、人だけじゃなく背景も見えた。
「カグツチ」
 僕はハッキリという。あれは間違いなくカグツチだった。
 僕が兄さんに会うために来た場所。
 あそこには何があるのだろうか。
 あの時、何かの変化があった一日。
 僕は知らない。本当は何があったかを。
 でも、なんとなくだがわかる。あそこには何かがまたあることを。
 僕の頭の中に一つの単語が導くように繰り返している。
 カグツチに行けと。
(帰還しなくてはいけないんだ)
 少尉と一緒に帰還しなくては迷惑をかける。
 帰還して、ツバキと話し合いたい。
 大尉も帰還を求めている。
 なのに、なのに。
(あぁ、ダメだ……)
 導かれるように、カグツチに行かなくてはと思ってしまう。
 僕が決めたことが崩れて、新しくそれが目的となっている。
 僕がまだ命令無視したら心配をかける人がいるのに。
 だけど、
「行かなくちゃ」
 カグツチに。
 僕は数日後、傷を治してすぐにカグツチに向かう
 向かう先に、僕が悩んでいる答えが見つかると思い
 何かに導かれるように

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