捧げものです。例によって例のごとく女性向けだと思うので、閲覧注意です。
それは孫市が甲斐姫達の話を聞き、いざ美形つぶしをせっせと考え、さっさと会話に出てきた連中に文を送りつけた色男決定戦の前日譚…。
「道場を綺麗にするのは良いわね、幸村」
「はい」
幸村と稲姫は稽古を一通りこなした後、道場の掃除をしていた。最初は互いに緊張していたが今ではすっかり打ち解け、本当の姉弟のように和気あいあいとしている。
「幸村様、いましたか」
「そなたか…何かあったのか?」
「あ、幸村様宛にこんな文が…って、信之様!?」
忍びの背後にいつの間にか幸村の兄・信之がいた。ご存知、無双シリーズきってのとんでもブラコ…もとい弟思いの真面目で優しい兄である。
「幸村!私はお前を天下の色男にしてみせる!!だから一緒に来なさい」
「え、ちょっと…兄上えええええ!?」
物凄いやる気を見せた信之は道着姿の幸村を無理やり引っ張り、そのまま出て行ってしまった。残った稲姫とくのいちは呆然とその様子を見ているだけであった。
「えーと、その文もしかして…」
「どれどれ…あー、天下一の色男を決める戦に是非ご参加ください…何これ、変なの」
その頃、三成は兼続たちと屋敷でのんびりしていた。
「殿宛に文が来ていましたよ」
「すまない…どれ…」
左近から渡された文の内容は真田兄弟宛てに来た文と同じ内容であった。もしやと思ったのか、吉継たちも互いに文を見せた…。
「同じだな、三成」
「なんと!しかしこの人選はいったい…ん?真田兄弟もいるのか!?」
兼続は最後まで律儀に読んでいた。なお信之は必要最低限の情報しか読んでいないため、参加者を把握していない。
「竹中殿、松永殿、政宗、眼鏡の小十郎さん、私、三成、吉継、左近殿、信之殿、幸村の10名だな」
「…俺は行かないぞ、大体色男など本来の意味を知っていれば不名誉なのだよ」
「この流れは良く分からないが参加するのも悪くないかもな」
吉継は特に気にしていない事に三成は突っ込みたかったが、極度のマイペース男なのを知っているので色々諦めている。もちろん、兼続にも言える。左近は息抜きとして参加する気でいた。あくまでも参加する気はない三成のみだが、吉継は煽ってきた。
「三成、幸村に何か自分の良さを見せるいい機会だと俺は思うぞ」
「ですね、あれだけ幸村の事を気に入っていますからね」
確かに幸村は友人として大事である。色男の事はどうでもいいし面倒くさいが信之が暴走して幸村に変に影響されないか心配と言えば心配である。口車に乗るのは癪だが考えれば考えるほど心配になってきた。
「分かった…参加する。称号はどうでもいいが信之が暴走するとひとたまりもないからな」
「よし、早速支度をしよう!えーと、場所は…」
―久秀
「半兵衛!お前もこの色男決定戦の参加者として名が挙がっているぞ!とっとと出るのだ」
「えー俺やだー、ねーたーいー」
久秀はお構いなしに半兵衛を引きずって、そのまま色男決定戦の場所へ向かった。
「着替え位させてよー。こんなだらしない格好やだー。寝巻きで外出なんて恥ずかしいよー」
「それなら良し!着替えてこい!我輩はここで待っている」
その辺の良識はあったんですね、あんた。
そして孫市のたくらみを知った政宗はというと、天下という言葉に反応したのかやる気満々だった。が、
「孫市め…これほど必死になって準備をするとは…感激したぞ!わしは出る!小十郎」
「はぁ…承知いたしました、政宗様」
この眼鏡、さっきから笑いをこらえるのに必死であったが政宗は全く気にしていなかった。これだけ血気盛んな政宗を止めるのは困難なのを知っているため、小十郎はついていくことにした。
「そもそも、ここに載っている方の大部分がやる気ないか根本的な意味を理解していると思えない方ばかりな気がしますがね…」
それを言ってはいけません、智の小十郎さん。
いの一番に着いた真田兄弟。信之はやる気に満ちているが、幸村は何もわからない状態であった。そりゃそうだ、文を読まぬまま連れて行かれたのだから無理もない。
「あの…兄上、これはいったい…?」
「ああ、すまない。説明していなかったな。これからお前を天下の色男にするために、この戦に勝つ!」
当たり前のように抱き着いてくるが、もはや幸村は引くしかなかった(しかし信之はそんな弟の表情に気づいていない)。こんな兄を見たことない…。参加するほかなさそうなのは目に見えていたが、参加する前から疲れてしまった。
「ん…なんだ、三成たちも来ていたのか」
「じゃないだろ、お前無理やり幸村を巻き込んでいるじゃないか!」
早速突っ込みを入れる三成。だが信之は気にしていなかった。
「道着姿とは何だか新鮮だな」
「稽古中という感じがしていいな」
兼続と吉継は呑気な事を言っているが幸村は見るからにやる気を感じられない。その格好で戦に参加するわけにもいかないと思うが後ろから聞き覚えのある女性の声がした。…信之の妻、稲姫だった。
「幸村!これ防具と槍よ!早く着替えて頑張りなさい!!色男になるのよ!」
「あ、義姉上…あの私は色男の意味がわ…」
「幸村、早く着替えなさい。心配するな、誰かが見ても恥ずかしいと思う輩はいない」
着替える前に夫婦はお約束のように幸村に抱き着いて充電していた。
「ああ、幸村に抱き着かないと元気が出ません…信之様」
「やっぱり幸村は可愛い私の自慢の弟だ。何もかもが自慢だ!」
「いい加減にしろ!変態弟病馬鹿夫婦がああああああ!!」
三成の怒りが綺麗に響いた。
三成の叫びが響いている頃…、
「三成の叫びが頭に響くわ…どれだけ叫んでおるのだ?」
「そうですね。ここで待ち伏せですか?政宗様」
「そうじゃ、そして相手を倒すまで!」
洞窟で男2人の待ち伏せ…だが、壁にひびが入っていることに二人が気付くのはまだ先の話。三成の叫び半端ないな、おい。
「ふあああああ、三成の叫びが頭に響く―痛い―かえりたーい」
「さっきから文句ばかりではないか!」
「だって俺昼寝がしたいんだもん!」
久秀は官兵衛から半兵衛の行動パターンを聞いてよかったと思う反面、それをあっさり教えた官兵衛に薄情者だとぼやく半兵衛だがその会話に突っ込みを入れる人物はここにはいなかった。そして、こんなゴタゴタしている中で色男決定戦は始まった。
「私はまだ道着姿のままです!」
「寧ろ生肌見せて女性の心をつかむのだ、幸村!」
もうだめだ、この兄貴。
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