フォロワーさんへの捧げもの「子飼い&幸村」です。
「どうしたんだ、幸村!?お前、こんな大雨の中で!?」
秀吉の使いも終わり帰ろうとした時、清正たちは幸村を見つけた。だが幸村は何も答えなかった。裸足のまま駆け出したためか、足元は泥と血で汚れていた。
「清正ー、とにかくあの茶屋行こうぜ。このままじゃ幸村風邪ひいちまうって…」
「そうだな」
「俺は店主に話しを付けておくから幸村を頼む」
三成は先に近くの茶屋へ向かい、清正と正則はひとまず幸村を店の中へと連れて行った。
「皆さんの着替えと傷薬です」
「すまぬな、急に男4人駆け込んでしまう形で…」
「いいのですよ。この雨ですし、一泊した方が賢明ですから」
店の者は三成に幸村の着替えと薬を渡すと部屋を出た。
「幸村、いったい何があったのだ?」
さっきから黙ったままで何もしゃべろうとしないが、相当傷ついた表情だったのは嫌でもわかる。
「おっさんが俺達に茶と団子を出してくれたぜ。ちょっとこれでも食べて落ち着こう、な」
正則はみんなに団子を配るが、それでも幸村は黙ったままだった。そこで清正はある提案を出した。
「しゃべるのが嫌なら、せめて紙に何があったか書いてくれないか?それなら喋らなくてもいいから」
「…はい」
ゆっくり立ち上がると幸村は文机に向かい、経緯を纏めはじめた。
事の経緯はざっくりいえば兄弟げんか…というか、信之に怒られた(かなり一方的に)ショックで衝動的に外を出た感じであった。しかし、この兄弟の喧嘩風景が想像できない3人は首をかしげた。なお幸村は一人になりたいとの事で、3人は隣室へ移った。
「つまり、信之に縁談の話をせず昌幸殿と共に吉継の家へ行った事と帰りが遅くなると伝えたが、予想以上に遅くなった…と」
「あの弟病兄貴って幸村絡むと痛いよなー」
その遅くなった理由も信之のお守りの紐が切れてしまったのを聞いて、代わりになる紐を探していたのだが似た質感の紐が見つからず町中探し回ったために遅くなったとの事だった。
「縁談で相当うろたえたがために感情的になった気もするぜ」
「目に浮かぶ…縁談と帰りが遅くなったことを知って、叱り飛ばしただろうな…」
ただ幸村の性格上、黙ったことを謝ったうえで飛び出した可能性がある。だが、互いに真面目で頑固な性格ゆえにどうしたら和解できるか悩んでいた。
一方、その信之はというと…、
「幸村…無事でいてくれ…」
感情任せに怒ってしまったことを謝るために土砂降りの中、幸村を探していた。後で昌幸と稲姫に紐の話を聞き、急いで探したのだった。
『何で縁談の話を黙っているんだ!?それに遅くまで出かけて…心配したぞ!』
『すみません…あの…実は…』
『言い訳なら聞きたくない!』
『……!』
『あ…』
『黙ったことは謝ります…』
『すまない、幸村…。待つんだ!今、大雨が…』
『兄上の顔を今は見たくありません!』
『信之、黙っていたのは俺も謝るが幸村を責めないでほしい』
『信之様、幸村はお守りの紐を探していて遅くなったのです』
『え…?あ、この包みは…』
『小さい頃に買ったお守りの紐が切れたと知って必死で探していたぞ。あやつはそれを悲しんでおったから、なんとかしようと町中駆け回ったのだ』
『…父上、稲、吉継。幸村を探しに行ってきます。あの雨で素足では危ないですから』
『お前も風邪をひくな…って!おい、信之!』
『行ってしまわれましたね…』
『昌幸殿、すまぬな…俺からも謝る』
『顔を上げてくだされ、今日は遅いですし、泊まっては如何ですか?』
『うむ…』
『では、支度しますね』
弟の縁談なら喜びと戸惑いと複雑なものがあるが、自分に黙っていたことがどうしても許せなかったのは事実。しかし幸村の言い分を聞かずに傷つけたのも事実。守りたいと言っておきながら、傷つけたことを謝らないと…。
「大谷家との縁談か…今はそれじゃない。幸村はどこにいるんだ…?」
ずぶ濡れなのを気にせず、信之はひたすら街を走り続けた。
「すみません…その…だんまりをしてしまって…」
「気にするな」
あれから泣き続けていたのか、目元は赤いがさっきまでの事を思えば落ち着いているのは分かる。
「茶と団子食べる元気が出ただけでも十分だ」
「そうそう…あれ?」
「どうした、正則?」
「あそこにいるのって…信之じゃね?」
と正則が言えば、幸村は外を見た…確かにずぶ濡れだが信之がそこにいた。
「あ…兄上…」
「どうするんだ?幸村」
「…会います」
「なら、行って来い。信之がお前の元へ来るようにせねばなるまいな…信之、聞こえるか!」
幸村は信之と会うために部屋を出た。そして三成は大声で信之を呼び止めれば、信之もそちらを向いた。
「三成…!?私は今幸村を探しているんだ、どこにいるか分からないか!?」
「幸村はこの茶屋にいるから安心しろ。そろそろいるんじゃないのか?」
と言えば、目の前には探していた弟がそこにいた。
「幸村!本当にすまなかった…。もう話も聞かないで怒らない事をここで誓う!」
「兄上…ぐす」
「その…一緒にお守りの紐を直さないか?」
懐からお守りと幸村が見つけた紐を出せば、幸村は表情が明るくなった。
「はい!兄上、一緒にやりましょう」
と、兄弟のやり取りを廊下でこっそり見ていた子飼い達はというと…、
(一時はどうなるかと思ったが、どうにか仲直りは出来たか)
(珍しく弟病発病していないな、ガチで)
(それをいうな…)
仲直りの役に立てたことは嬉しかったのは言うまでもない。そしてこの5人は一晩泊まった後、店主に礼を言ってからそれぞれの屋敷へ戻ったのだった。
おまけ
信之「まさか、お前の娘との縁談とは…」
吉継「安岐は中々鋭いから何かと鈍い幸村にはちょうど良いし、何よりもお互い打ち解けているからな」
三成「幸村にも縁談か…意外だが、あの雰囲気を見ていると悪くない」
兼続「あ、赤くなったぞ。幸村の奴、何か茶化されているな」
左近「しかし…あんたら兄弟って、やっぱり似ていますね」
信之「そういうものなのだろうか?よく正反対とは言われるが…」
三成「やはり兄弟だな、変な所で無自覚なのは似ている」
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