捧げものです。ちょっと女性向け描写あるかもしれないので閲覧注意。
―豊臣家の屋敷、石田三成の部屋。ここはいつしか、たまり場になることが多くなった。
「お前たち兄弟は確か揃いのお守りを持っていたな」
「あ、これですね」
信之と幸村は同時に懐からお守りを出した。それは色違いだが桜の刺繍が綺麗なお守りだった。
「随分と大切にしているのですね」
「はい。幸村は随分と嬉しそうだったのを覚えています」
「揃いということではしゃいだ流れだな」
と、吉継が推測すると幸村は真っ赤になってうつむいてしまった。どうやら、図星のようだ。
「で、どのような経緯があったのですか?信之殿」
「それはですね…」
兼続が尋ねれば信之は語り始めた。
それはまだ二人が幼い頃の夏だった。この日は地元で大きな縁日が開かれ、信之も幸村も楽しみにしていた。父の昌幸も存分に楽しんで来い、と背中を押された。
「幸村、離れないように…ほら」
「はい、兄上」
この弟はやんちゃで目を離すとどこかへ行ってしまう事が多いので、信之は手を握った。最初は一周して祭りの雰囲気を楽しんだ。
「わぁ…提灯の絵が綺麗ですね」
「手作りの雰囲気が良く出ている」
この兄弟は好対照でありながら、兄弟仲が良く町の人たちも可愛がっていた。殆ど喧嘩をしない故か、覚えられやすい二人でもあった。
「犬のお面は似合っているぞ、幸村」
「その…犬っぽいでしょうか?」
と、幸村は首をかしげるが信之は笑いながら頭をなでた。
「人懐っこい所や真面目な所があるから、そう思えるのだろうな」
「そうでしょうか?」
「大きくなったら分かると思うぞ」
「兄上と1つしか違わないのに、それは酷いです」
幸村はむきになるが、それすらも可愛げあっていいなー、微笑ましいなー、と笑っていたが信之はあるものを見つけて、足を止めた。
「あ…」
「どうしました、兄上?」
そこには様々なお守りが置かれていた。
「おや、信之様、幸村様じゃないですか」
「あの…このお守りを…」
信之は桜の刺繍が入ったお守りを見つけた。赤・黒・白の3色と刺繍のデザインもお守りの色もシンプルだが信之はすぐ気に入った。
「桜のお守り綺麗ですね…あの、兄上。どうしました??」
「このお守りを2つください。赤と黒をひとつずつ」
信之は珍しく意気込んでいたので、幸村は少々驚いた。
「え…良いのですか?2人で2人分出した方が…」
「そういう遠慮はいらない。私が2つ買いたいから買う。これでもお前の兄だからな」
戸惑う幸村をよそに信之は自分も頑固者だということを見せた。その様子を見て、店主は大笑いした。
「幸村様、ここは素直に甘えた方が良いですよ。これは引きそうにない」
「…うう、分かりました」
幸村はしぶしぶ引き下がった。
「では、このお守りを…」
ひとしきり回ったので、二人は木陰で休んでいた。
「あの…有難うございます」
「そんなに遠慮しなくてもいい。顔がゆるんでいるぞ」
さっきからお守りを見て、喜んでいる幸村の頬をつつく。色は信之が黒、幸村が赤である。
「兄上…突かないでください…恥ずかしいです」
「あはは、悪かった。でもこうして兄弟揃いのものがあると、嬉しいものだな」
「はい、幸村も嬉しいです」
この後、2人は楽しく盆踊りなどを楽しんで屋敷へ戻った。
「という訳だ」
「あの…兄上…、そこまで話されると…恥ずかしいです…」
「良いじゃないか、別に」
過去の話を意気揚々とする信之に対して、幸村は終始一貫恥ずかしがっていた。はしゃいでいたことを話されたので顔は真っ赤だった。
「流石に今でも幸村の事で顔ゆるめて語る姿は怖いぞ、信之」
「なんだ三成?私と幸村の兄弟仲に妬いているのか?」
「なんでそうなる!?」
充電と言わんばかりに幸村に抱き着く信之。幸村の話だと毎日やっているとの事だ…正直気持ち悪い。というか自分の部屋でやるな、と叫びたいが三成はぐっとこらえた。
「二人のお守り、少し見てもいいか?」
「ああ、分かった」
「どうぞ」
「どれ…刺繍が上品で控えめなのも相まって綺麗だな」
色にしても着物の色と揃っていることもあり、互いに似合っていると吉継は実感したタイミングで、清正たちがやってきた。
「ほれ、土産の饅頭だ。使いのついでに買ってきたぜ」
「悪いな。わざわざ」
「しかし随分と人が集まっていますし、広間で食べましょうか」
と左近が提案すれば、全員三成の部屋を出て広間へ向かった。
「兄上…」
「どうしたんだ、幸村?」
「兄上は私の誇りです…その…兄上は私を自慢だと言っているように…私も兄上は自慢の…兄上…ですから…」
照れくさそうに幸村が言ったために信之は感激して、さっきよりもきつく抱き着き、三成の怒号が響いたのは言うまでもない。
おまけ
幸村「義姉上のお守りです。花の形にしてみました」
稲姫「桜のお守り…ありがとう幸村」
幸村「そなたも」
くの「あ、ありがとうございます」
稲姫「紐の色が違うから分かりやすいわね」
くの「あたしは桃色、稲ちんは白だね」
幸村「材料を集めるのが大変でした」
稲姫「…手作り!?」
くの「手先が器用ですよね、昔から」
幸村「いつも兄上が文学、私が実技‥とやってきたからかな」
信之「お前も別に学がないわけではないだろ」
幸村「兄上!?いや、その…」
信之「稲達の分も作ったのか…お前はモノづくりが上手だったな」
幸村「そんな…お恥ずかしい…」
信之「ところで、その材料は?」
幸村「はい、お世話になっている方を象徴するお守りをこれから作る予定です」
信之「そうか…なら私も手伝おう」
幸村「ありがとうございます」
稲姫「私も手伝うわよ。貴方の事だから多くの人の分を作るでしょ?」
くの「じゃあ、あたしも」
幸村「では4人で楽しくやりましょう」
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