捧げものです。珍しく前編・後編構成となっております。女性向けな描写があると思うので閲覧注意。
「という訳で信之、3日間は大目に見てあげて!三成本当に多忙だったから…どうか幸村と一緒にいることを怒ってあげないで!」
広間での談笑を終えた後、ねねは信之に三成の事情を話していた。
「おねね様、顔を上げてください。別に幸村と三成が一緒だということで怒っていません…あいつが倒れてしまっては秀吉様も大変でしょうから…」
「信之…有難う!本当に幸村想いのいい子だね!応援しちゃうよ!」
「そんな…私はただ…」
「お兄ちゃんは弟の事を思って堂々としていることも大事だよ!」
ねねに背中を押されるがまま、信之は幸村たちの所へ戻った。
―三成の部屋。ここには三成と吉継がいるだけだった。
「お節介焼きばかりで困る…」
「そういうな、三成。お前とて、幸村の事になると面倒見ることが多いじゃないか」
吉継は三成に茶を出しながら、ズバッと指摘した。明日から3日間は休暇だが幸村と一緒だということに変に緊張している。この前の怪我の事で申し訳ない事もあるが信之が大人しいということが引っかかる。あれだけ痛い弟病故に怖い。
「ところで、どう過ごすつもりだ?」
「別にどうもこうもない…。ただ、1か所だけ連れて行きたい場所はあるから、そこへ連れて行きたいと思っている」
「そうか…。お前の休暇が平穏であることを祈っておく」
「すでに俺の休暇が平穏じゃないと言いたげだな」
その一方で幸村は信之たちと一緒にいたが唐突な頼みごとに戸惑っていた。
「三成殿と休暇を過ごすと言われましても…どうしたものでしょうか?」
「お前の好きなように過ごせばいい。いっその事、おねだりしたらどうだ?」
信之は困り顔の弟の頭を撫でながら答えた。だが周囲はそのことで怒らない信之の態度が意外すぎた。兼続も左近もそれを心配していた。
「名案ですな、信之殿。三成もきっと幸村のおねだりなら喜ぶでしょう」
「幸村、殿を頼むぜ」
こっちはこっちで三成の事を任されているのであった。なお信之は結局、幸村が心配で覗きに行ってしまうのは言うまでもない。
―翌日。幸村と兼続は三成の部屋へやってきた。
「三成殿、おはようございます」
「おはよう、三成!眠たそうだな!!」
兼続の声が頭に響いてきたため、やや不機嫌な三成。うるさいのは今更だが疲労が抜けない今の状況では鬱陶しく感じる。
「朝からうるさいぞ、兼続」
「そういうな、幸村はお前のためにお守りを作ったのだぞ」
幸村は白地で藤の刺繍をあしらったお守りを包みから出した。手に取ると、どこか温かみを感じる。しかし幸村が持っているお守りのように桜ではなく、藤の花は少し珍しいと思った。
「すまない、このようなものを…。ところで藤にした理由は?」
「三成殿の家紋が藤の花だとおねね様から教えてもらったんです。桜も考えたのですが、家紋と揃えるのも趣があると思い、藤にしたのです」
「因みに私は蜜柑の花だ!みかん色の生地に白い花とは洒落ているぞ」
堂々とお守りを見せる兼続。三成は義か愛の一文字がでかく刺繍されているものかと思ったが、思わぬ変化球に乗り遅れた。上杉が白故にどちらかを白にしたかったのであろう。紐の色も淡い緑で葉の色を表現しているのも良く分かる。
「私は統一感があって気に入ったぞ。蜜柑の花こそ上杉の義と愛を象徴するにふさわしい!」
「お守りが気に入ったとだけ言えばいいだろうが!」
三成は兼続を遠慮なくしばき倒し、兼続は伸びた。結局三成の突っ込みは休日でもさえているのでした。
そして、信之は物陰から見守っていた。
(お守り渡すだけか…それならいいが)
(信之様…あの二人はちょっと危なっかしいです)
夫婦そろって三成たちに幸村取られるなどと思っている幸村馬鹿炸裂していたと同時に幸村に抱き着きたいところを必死で抑えた。なお、幸村はとっくに気づいていたのはまた別の話。色々考えているうちに三成は幸村に話しかけた。
「幸村、明日お前に見せたいものがあるんだ。一緒にどうだ?」
「見せたいものですか…ご一緒させてください」
幸村は嬉しそうに答えると、三成もつられて笑った。だが、こんな事でへこたれる信之ではなく当然、後をつける気満々だった。そんな夫婦を三成はガン無視して、幸村から貰ったお守りを大切に握っていた。
「三成、いってらっしゃーい」
「おねね様、恥ずかしいから辞めてください…」
夕方から三成は幸村を連れて行った。だが、ねねの出迎えは良いのだが声が大きいため、辞めてほしかった。幸村は特に気にせず、ねねや清正たちに挨拶をして出発した。二人の姿が見えなくなった直後、信之達も出てきた。
「ふふふふ…追っかけるわよ」
「そうですよね、おねね様」
「行きましょう」
「ですよね、おねね様。俺も一緒に行きます!正則、来い!」
「俺も!?」
そして稲姫に連れてこられた甲斐姫や早川殿も付き合う気満々だった。ねね主体で二人のストーキン…もとい、尾行が始まった。
ストーカー組が出てから数時間後、二人は山道を歩いていた。
「意外とわかりやすい道なのですね。草木が多いと思っていましたが…」
「ああ、ここは誰かが整備した道らしいが抜け道なのか入口はややこしくしているみたいだ。そろそろ着くな」
道を抜けると、そこには桜の大樹があった。樹齢何百年にもなるような立派な木だがそれだけではなかった。花びらが光っているように見え、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「綺麗…」
「ここの夜桜は俺も惹かれた。秀吉様に連れてこられた時、今日みたいな満月が出た夜だった。月の光でここまで見違える事はないだろう」
「三成殿、有難うございます。私もこの夜桜とてもいいと思いました」
改めて礼を言う幸村に三成は照れくさくなって、そっぽ向いてしまった。どうしても幸村に見せたくて仕方がなかったとはとても言えなかったし、何よりも背後の連中に対してそろそろ怒鳴りたくもなってきた。
「あの、兄上…何しているんですか?」
「おねね様…俺の機嫌が変わらないうちに出てきてください」
「えー、やっぱばれたー?」
「幸村…やっぱりお前と桜は似合っているぞ」
ねねと信之が先に出てきた…が、他にもいた。清正、正則、稲姫、くのいち、甲斐姫、早川殿と続いていた。
「ここかよ…確かに連れて行きたいよなー」
「懐かしーなー。んだよ、水くせーなー」
「夜桜綺麗…夜桜と幸村も似合うわ!」
「稲ちん、落ち着いて」
「美男子二人と夜桜って素敵…」
「そうね…眼福だったわ」
言いたい放題ぬかすストーカー組に二人は突っ込みたいものの、何か言うのも面倒くさくなってきた。気になったことがある、兼続がいない。
「兼続は伸びたままなのか?」
「違うよー、人数分のお弁当持たせているから到着が遅くなっているだけ」
「まさか、ここにいる面子で花見とか言いませんよね?」
「他に何があるんだよ、バカ」
清正に小突かれる三成をよそに信之と稲姫は幸村に抱き着いた。
「幸村ああああ!けがはないか、疲れていないか!?」
「幸村に抱き着かないと、もう辛いわー」
「く…苦しいです…」
夜桜を見せたかっただけで幸村と静かに過ごす予定が結局、ドタバタに終わる事に三成はがっかりするものの、どこか嬉しくもある自分に苦笑いしていた。幸村は抱き着かれて大変そうだが、当人は笑いながら受け入れているようだった。
「お…お弁当です…」
スルメイカの如く、疲れ切った兼続がやってきたところで花見大会が始まったのだった。
そして休暇が終わり…、
「三成、休暇中に幸村を独占で来て嬉しいと思うな!」
「だから何でそうなるんだ!?」
「飽きない人たちですね…本当に」
「互いに遠慮がないのは良いが、これだけは困る流れだな」
相変わらず幸村に抱き着く信之に突っ込みを入れ、周囲はそれを生暖かい目で見ている日々に戻るのであった。
おまけ
幸村「吉継殿と左近殿のお守りです」
左近「お、有難うな。梅か…紅白で綺麗だぞ」
吉継「俺は竜胆だ。静かな感じがする」
三成「お前、どれだけ作ったんだ?」
幸村「秀吉様、おねね様、清正殿、正則殿の分もありますよ。先ほど渡しました」
清正「幸村…おねね様の刺繍有難う…綺麗にできていて俺は感動している!要望言った甲斐があった!」
正則「俺は槍って言った。けど清正…お前すげーキモイ」
三成「ああ、正論だ」
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