フォロワーさんのネタから生成しました小ネタです。例によって例の如くなのか、女性向けになっていると思うので閲覧注意です。
自分を優しく人として受け入れてくれるからこそ、辛くあの人を思い出してしまう…。
「お前は上杉にいた頃、拗ねて押入れに入ったときがあったな」
「な…!それは…」
三成達とたわいない会話をしている時に兼続は唐突に降ってきたため、幸村は信之にしがみついてうつむいてしまったが顔は真っ赤であることは良く分かる。
「幸村…そんなにしがみつかまなくても大丈夫だから、少し落ち着きなさい」
「すみません…」
「で、何があったのだ?」
ひとまず幸村を落ち着かせるのは信之に任せる三成。そして兼続に過去の事を尋ねれば彼はその事を話し始めた。
それは幸村が上杉の人質となって少しずつ慣れてきた頃。兼続は幸村の面倒をよく見ており、この日は町の案内をし、茶屋で休憩していた時だった。
「少し慣れたという顔つきになっているな」
「兼続殿…みなさん、とても温かい方ばかりで感謝しきれません」
「上杉は義と愛を重んじるからな!」
と、誇らしげに語る様子を見て、幸村は微笑んだが少しさみしそうだった。兼続はその事に気づき、
「幸村…あまり無理をするものでないぞ」
「そんな事ありませ…」
と、反論していた横で幼い兄弟が団子を仲良く食べていた。
「兄上、お団子半分にして食べましょう」
「ああ、一緒に食べよう」
何気ない会話をしていたにすぎないが、幸村にとっては心苦しいものを感じた。
(兄上…)
『幸村、この辺で休もう』
『はい、兄上。あ、一緒に作った餅を食べませんか?』
『そうだな』
『では、半分に…』
『お前はたくさん食べなさい。私は良いから』
『駄目です!こういう時は半分にして食べるべきです!兄上も一杯食べてください』
『…お前にはかなわないな』
『え?』
『なんでもない、一緒に食べよう。半分ずつ、な』
『兄上…』
「幸村?どうしたのだ??」
「あ、すみません!そろそろ城へ戻らなければなりませんね!兼続殿!」
どこか上の空の幸村が気になるが兼続は無理に詮索するのをやめ、城へ戻った。
城へ戻り、幸村は部屋で空を眺めていた。
「家を守るために人質になると申し出たというのに…」
これまでも信濃の空気を少し恋しく感じる事はあったが、ここまで苦しく感じなかった。上杉の人々は優しく自分を人として接してくれる。それはとても嬉しかったし、有難い事なのはわかっている。だからこそ、武田の人や家族の優しさを思い出してしまう。最近は一つ年上の兄・信之と過ごした日々を思い出すことが多く、苦しくなることがある。
「上田へ帰りたい…こんなの我儘なのはわかっているのに…どうして…!」
振り返ると兼続がいた。
「幸村、そんなに思いつめなくとも…」
「聞いていたのですね…兼続殿」
「あ、それは…」
「すみません、軽率なのはわかっています。けれど、今は辛さしかありませぬ…」
「ひとまず落ち着くんだ、ゆきむ…」
「嫌です!」
兼続の手を払いのけて、幸村は部屋を出てしまい、兼続はただその後ろ姿を見ていることし出来なかったがいつの間にか綾御前が後ろにいた。
「幸村…」
「おやおや、困った子供ですね。ならば少し落ち着かせましょうか」
「御前!?その札は…」
それは子供になる術を施した妙な札だった。綾御前は幸村の悩みを既に見抜いていたため、着物に札を貼り今が術を使う時だと言わんばかりに札を使った。なお貼り付けると自然と消えるため、誰かにばれるということはまずない。また今でいうGPSのような機能も付いている便利すぎるものだった。
「少しくらい、不満や愚痴を吐き出せば落ち着くでしょう。景勝には場所が分かるようにしていますから」
その頃、幸村は客室の押し入れに隠れていたが漸く小さくなっていることに気づいた。なぜこんな姿になったのか気にしている時に誰かが来た。足音が近くなり、静かにして去っていくことを祈っていたが、その人は押入れを少し開けた。
(え?どうして…?あ…)
隙間から見えるのは景勝だった。
「おいで…」
ただ、その一言だけ。でも優しさにあふれる一言だったからか、幸村は押入れから出て、景勝に謝った。
「景勝様…申し訳ございません…。その…」
「…戻ろう、兼続が待っている」
景勝はそれ以上言わなかったが、幸村の頭をそっと撫でてから彼を部屋まで連れて行った。
―幸村の部屋。幸村はいつの間にか元のサイズに戻っていた。
「皆様、すみませんでした」
「少し落ち着いたみたいですね。ですが、お仕置きをせねばなりませんね」
「母上…」
「御前…さすがに幸村相手にいつもの薫陶は危険すぎ…」
必死で綾御前を止めようとする二人だが、綾御前は突然幸村の頬をつねった。
「まあ、可愛い反応です」
「い…いひゃいれふ…」
兼続とは偉い違いなのを景勝は呆然と見ていた。そんなツッコミをすれば、母の仕打ちが怖いからだ。たぶんこれが幸村への薫陶だろう、と。
「この辺にしておきましょう。では」
と、3人に微笑んで綾御前は部屋を出た。幸村は頬に手を当てながら兼続を見た。
「先ほどは申し訳ございませんでした」
「気にするな。お前が元気になったことこそ私は嬉しいぞ。故郷と信之殿を思う心は正に愛だ」
「…今日はゆっくり休め」
二人の言葉に幸村は少し笑い、はい。と元気よく答えた。因みに子供になった理由を知ったのはこの数日後である。
「と、いう訳だ」
「なるほど。故郷が恋しくなって駄々をこねた‥随分と子供っぽい一面があったのだな」
三成は感心したように言いながら、信之の方を見た。幸村は、しがみついていないものの彼の背中に隠れたままだった。
「こらこら、もう大丈夫だから顔をあげなさい」
「は、恥ずかしいです…」
「信之さん、こうなっちゃ幸村は暫く顔上げないと思いますよ」
左近が呑気に言うと、信之は苦笑いしながらもうなずいたが、幸村が甘えてくるのを喜ぶ変な所がある。三成が言う弟病…つまり、ブラザーコンプレックス。幸村には兄病と呼ばれないのは、ひとえに信之が深刻だからである。
(優しさが時に辛くなると聞くが、このことを言うのだろうな)
などと真面目な空気にして今の空気を崩すのは勿体と思った吉継は敢えて黙った。この後を思うと、信之は壊れると思ったからだ。
「幸村を子供に…兼続殿は見たのですか?」
「見てないですが…戻ったときには幸村は元の姿でしたし」
「見たかった…あの愛くるしくもやんちゃな子供幸村がああああああ!」
と叫べば、信之はひたすら幸村を抱きしめた。かなりきつそうだったが、三成は信之の痛い言動の方がきつかった。
「兄上…苦しいです…」
「もう一度、あのころのお前が見たい」
「気色悪いわ、この変態兄貴が!」
三成の怒号と信之の頭に鉄扇を決めた音が同時に重なり、屋敷は地震に見舞われたのだった。
おまけ
幸村「兼続殿!あの話は恥ずかしいから、もうしないでください!」
三成「お前でも恥ずかしい事があるのだな」
幸村「三成殿…」
兼続「こーんな幸村は中々見れないからな」
信之「何を言うか、幸村はいつだって可愛いぞ」
吉継「お前はどこまでも幸村一直線だな」
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