『雪の空、澄んだ意志』
―この雪景色は、お前が守ってくれたんだ。俺は嬉しいさ。
そう、この言葉で俺は進む事を決めたんだった。この戦いを…。
「え、休暇ですか?」
「おぉ、そうじゃよ。暫く休みを取っておくのじゃよ。お~そうじゃ、ビードブードがのぉ、隊長代理として働いてくれるそうじゃよ。安心せい」
ケインから突然の申し出に戸惑うエックス。それもその筈、レプリフォースの独立宣言以降、戦火が激しくなりハンターベース内は慌しいのだから。これまでに、3箇所の拠点を制圧しており、ますます気合を入れていかなければならない時である。だが、ケインは戸惑う彼を気にせずに話した。
「断っても駄目じゃぞい。予約を入れたんじゃから」
「え!?何でまた…」
「とにかく、場所はここじゃ…エックス」
そう言って、ケインはディスプレイをエックスのほうに向けて、地図を見せた。そこは、バッファリオの居る街であったことを思い出した。
「…分かりました。えっと、幾日ほど予約を?」
「3日じゃよ」
「はい。それじゃあ、行く事にします」
エックスがハンターベースを去り、バッファリオのところへ向かった頃…
「博士~、どうでしたか?」
「ヘチマールか?成功じゃよ」
「良かった!僕の作戦成功!」
実は、エックスの休暇を思いついたのはヘチマールだったのだ。事の下りは、ヘチマール的に元気がないエックスを見て、非常に心配で力になりたかったからである。その事をトウコに相談したのである。そうしたら彼女は、以前から礼を言いたがっていたバッファリオの事を思い出し連絡を取ったら、すぐに承諾してくれたのである。無論、ビードブードも呼び出しており、しっかり相談した上で申し込んだのである。
尤もケインは、うすうす気づいていたエックスの暗さである。休暇でも取り、気持ちの整理を付けさせるか…と思っていた所であり、思惑が一致したのである。
「ビードブードやトウコには礼を言わなければのう…任務の激化を思えば…」
「でも、お姉ちゃん達は気にしないと思うんだ。博士の事、そんけいしているから」
「そうか…じゃが今回はヘチマール。おぬしに感謝するぞ」
「ヘヘヘ…」
―エックス…
「着いたな。確か、この辺で…」
「おぉ、エックス。ここだ」
「バッファリオ。久しぶりだね」
待ち合わせより少し早く着く事を心がける彼の性格を知ってからか、バッファリオも早めに到着したのだった。バッファリオは確かに笑っているが、どこか辛そうに笑うエックスを見て、トウコたちが話していた事に納得が行った。
(これは相当、辛い事を耐えていたんだな…)
「どうしたの?俺の顔に何か付いていた?」
「いいや、何でもないさ。さぁ、エックス。案内するよ。整備長が会いたがっている」
勘付かれないように必死であったが、エックスは何も気づかないでいたので内心ホッとするバッファリオだった。そして、エックスを案内した。
「整備長、エックスを呼びました」
「今日は、整備長」
ドア越しの挨拶を終え、部屋へ入るエックス。そこには以前、バッファリオの事を心配し、エックスに心を取り戻す事を頼んだ彼がいた。あの時以上にリーダーらしい風格を見につけた感じであった。
「いやぁ、わざわざスミマセン。エックスさん。あの時は助かりました」
「いえ…ひとえに整備長の言葉がバッファリオを元通りにしたんです」
「あの時の喝は凄かった…それからは、より真剣に取り組んでいるんだ」
ドップラーの一件で洗脳されたバッファリオ。それを何とかすべくゼロと共に赴いたこの街で、最初に会ったのが彼であった。彼はバッファリオの心を信じ続け、また今までのように雪山で遊ぶみんなの笑顔を共に見届ける日々を取り戻したいのであった。その誠意に触れ、エックスは殺さずに更正させることを約束したのだ。ゼロもエックスの優しさ(甘いとは言ったが)に呆れながらも、付き合ってくれたのだった。
だが、パワーがあるだけに事は難航していった。エックスの言葉は届かず、それでも整備長との約束を違えたくない一心で叫んだ。ボロボロ状態の中、殺されそうになった時、整備長は「戻って来い!この大バカ野郎!!そんな柔な心で俺を泣かせるんじゃねぇ」と大きな喝を入れたのだった。そうしたら急に苦しみ出したバッファリオ。その隙にエックスは、洗脳の根源であるチップを除去したのであった。
「あの時は俺も必死だったからな」
「そうでしたね。あの後は、すぐ戻れてよかったですね」
「あぁ。だから、御礼をしたかったんだ」
「そんな…」
「まぁ、良いさ。じゃあ俺は、仕事に戻るので、これで引き上げます」
「整備長、エックスの事は俺に任せてください」
「おぅ!」
エックスは、整備長に挨拶した後、部屋を出て、バッファリオに泊まる部屋を聞き、少し部屋で休んだ後、見せたい所がある。と申し出る彼に、何があるか楽しみ、と言う表情を見せて、部屋を後にした。
―ハンターベース
「ヘチマールか、どうだった?」
「ビードブードさん。ばっちり大成功だって♪」
「そうか…全くゼロの奴、身近な奴が辛い事に気づいていねぇから困るよな」
そんな風にため息をつく隊長代理に、たまたま話を聞いていたイーグリードが
「そう言うな。ゼロもゼロで悩んでいるみたいだからな」
「あ…そうですね。イーグリードさん。ですが、やっぱり…」
「そうだな。何よりもゼロを理解している親友の様子も分からない様じゃあなぁ」
「やっぱり…心配なの?」
本当だよ…とイーグリードとビードブードは口を揃えてぼやいた。
エックスは、バッファリオに案内され、丘に着いた。
「ねぇ…ここって…」
「あぁ、ここか。隠しスポットだ。さぁ、エックス。見てみな」
「わぁ…」
そこは、かつて反乱があり荒れ果てた街では無く、活気があり白銀と喩えるに相応する美しい街並みであった。戦時下だが、人々は逞しく生きようとしている様子がよく分かった。
「雪って、こんなに綺麗に見えるんだね。凄いや。バッファリオが守っていた街は、こういう事だったんだね」
「ああ。がだな、エックス。この雪景色は、お前が守ってくれたんだ。俺は嬉しいさ。そして、俺はお前を誇りに思っている」
「そ…そんな…何だか恥ずかしいな」
さっきまで暗く辛そうだったエックスの表情は、みるみる明るくなっていった。そしてバッファリオは、真実を言うことにした。
「笑ってくれたな。それが嬉しい」
「え?どういう事?」
「実はな…」
バッファリオは、この休暇の経緯を全部、エックスに話したのであった。
3日後。エックスは整備長・バッファリオに挨拶をして、帰っていった。
「エックスさんの顔つき、この前とはまるで別人だな」
「そうですね。歩む道を見つけたのでは?」
「そうだったな。それが目的だからな」
街の管理人は、笑いながら従来の仕事に就き始めた。
(バッファリオ…ありがとう)
帰り道の途中、エックスは世話になった彼に心の底からそう思った。そしてベースに帰還後、ヘチマールとビードブードが出迎えてくれた。
「兄ちゃん、お帰りなさい」
「エックス!待っていたぜ!」
「うん…皆、有難う。俺、進む決心が付いたよ」
この後、どんな過酷な事があっても切り抜いてみせる。迷って足掻いて、それでも道がいつか拓かれる。そう信じて、エックスは立ち向かう。そう、ゼロと仲間と共に…ゆっくり一歩ずつ…。
『イメージソング』
Spoon「西の空へ」…ドキドキ伝説 魔方陣グルグル 第1期ED
メロディは切ない感じだけど、中々前向きに行こうとする歌詞が好きです。
「壊れた時計は ここに置いていこう 信じられるものが あれば」
素敵過ぎるのに、CD買えずくすぶっていましたが、オムニバスで聞けました。
『あとがき』
ジレンマ多い「X4」から、書くのを再開するとは…。てかゼロ書かない時点で、完璧異端作品ですね。私の考えすぎかもしれませんが、ゼロの苦悩に気づかず歯がゆい思いをエックスは抱えていた気がします。次回書くか否かは、分かりません。文章書くのが苦手なので、緊張しました。
幾らシナリオが薄っぺらいと雖も、やりすぎたかな…反省。
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