捧げものSS・マイ伝

 あつみさんへの捧げものSSです。あつみさんのみお持ち帰り可能です。



 
「マトリクス、今の私に持つ資格はない…」
 目の前にあるマトリクスにつぶやくが、それは何も答えない。そして、その呟きも誰かが聞いているわけではなかった。メガトロンはユニクロンとともに消えてしまい、残された自分自身は何なのか。今のコンボイにそれを考える気力は無かった。
 「司令官…眼覚めましたか?」
 「ジェットファイヤー…うん、まだ眠いけど大丈夫だよ」
 コンボイは気づいたときには治療室にいた。あの戦いの後、結果としてメガトロンに助けられた。途中で気を失ってしまい、ジェットファイヤー達に助けられた事を知ったのは大分あとになってからだった。後で話を聞いたが、見つけた直後はダメージが酷かったらしく、治療に数日かかった。つまり、あの戦いから既に日がたっているという事だ。しかし、体の色は黒いまま。目の色も赤いまま。目の色はメガトロンと同じだ、と呑気に思っていたが、自分を庇って消えた宿敵に事を思うと、心苦しいものがあった。
 「どれだけメガトロンと派手に戦ったんですか?あちこちボロボロでしたよ…」
 「もう自分でもわからない位、全力をぶつけていたんだ」
 弱弱しくもはっきりとコンボイは答えた。少し体を起こし、手を自分の胸に当てた。そこにはマトリクスはないのだが、まるで今の自分の心を表現しているように感じた。
 「結局私だけ生き延びてしまったな……」
 「違いますよ。生かされたんです。おそらく、貴方を庇った事は後悔していないと思います。その…良くも悪くも我が道を行くタイプじゃないですか。だから庇う時に庇って、戦う時は戦う。そんな気がします」
 「そうか…すまない。気弱になってしまって」
 「良いですよ。偶には俺達に本音を言ってくださいね」
 「ありがとう…ジェットファイヤー」
 コンボイは穏やかに笑った。その表情は見る者を安堵させる柔らかい笑みだった。
 数日後。あれからコンボイは順調に回復していったが、いまだにボディは黒いままで仕事もそこまで取り掛かれない状態だった(ラチェットは治療も仕事だと言われて、事務系の仕事すらやらせてくれなかった)。ラッドたちは地球へ帰って行ったが、まともに挨拶できなくて申し訳ないと思った。そんな中、サイバトロン基地内でも貴重な憩いの場である中庭でのんびり過ごしていた。ふと、後ろから声をかけられた。主はジェットファイヤーだった。
 「ここ、良いですね」
 「あぁ、とても気持ちが安らぐいい場所だよ。そういえば、ふと君を副司令に任命した時の事を思い出したよ」
 「俺、まじで驚きましたからね…」
 それは遠い昔の話。まだコンボイが司令官になって間もない頃。そして副司令官の座が空席だったころ。自分に次ぐ者を決めかねていた時だった。ラチェットは副官で十分だと辞退されてしまい、どうしたものかと悩んでいたが、ある時休憩室で白いボディの青年と出会った。
 「はぁ…」
 「司令官ですか?」
 「そ、そうだが…」
 「はじめまして、俺ジャットファイヤーと言います。あの…何だか悩んでいますね」
 「副司令を誰に任命するか決めかねていたんだよ…とても重要だからね」
 「ラチェットって戦士じゃないんですか?いつも親しそうでしたけど」
 「辞退されてしまってね…だから自分の目で戦士一人一人の素質や性格を見て、直接話して、それから決めようかと思ったんだ」
 「凄いですね。あ、休憩終わっちまう。すみません、これで失礼します」
 「そうか、じゃあ気を付けるんだよ」
 ジェットファイヤーが去った後、コンボイは副司令を誰にするか誰が適任なのか、一人ずつきちんと話を聞き、仕事の様子を見ていった。
 そうこうしている間に数か月が過ぎ、ようやく戦士たちとの対話も終え副司令を誰にするか決めようと思った。とにかく今後の事もあるから、慎重に決めないといけないのだが誰にするかはあっさり決めてしまった。コンボイはあの白い青年が印象深かったのだった。少しずつ話していくと、彼はノリの軽い所はあるが決して本質と現実を見失っていない、あの明るい性格は周囲の空気を明るくさせる。確かにサイバトロン内でも貴重な航空戦力だが、それ以上に彼は自分にないものをたくさん持っている。これだ、自分にないもの。そしてコンボイはジェットファイヤーあてに辞令をだし、司令室へ来るように命じた。
 「失礼します、ジェットファイヤーです」
 「あぁ、ジェットファイヤー。入っておいで」
 ジェットファイヤーは緊張しながら司令室に入った。コンボイの部屋は整然としていて彼の性格がよく出ていると思った。シンプルだが品のある感じだ。
 「辞令読みました…俺が副司令ですか?」
 「そうだよ」
 「どうして…」
 「私が持っていないものを君はいっぱい持っているから。それが大切なんだ」
 本来なら司令官に似て真面目な戦士が副司令でいいのでは?と思ったが、コンボイが言うには自分にはジェットファイヤーのように場の空気を明るくさせる力はない、と。士気を鼓舞させることはできても、何事において明るくさせることにならないのだ。
 「あの、本当にいいんですね?俺で」
 そういえばコンボイは静かにうなずいた。そして程なくしてジェットファイヤーは副司令となり、若くノリが軽すぎて多少周囲は呆れつつも、明るく頼もしい副司令として信頼されていった。またコンボイも仲間と楽しく打ち解ける彼の様子を見て、嬉しそうに微笑んだ。
 「でも嬉しかったんですよ。俺の事、そういう風に捉えてくれたこと」
 「こうしてリハビリに集中できるのもホットロッドが指揮官代理として頑張れるのも君のフォローがしっかりしているからだよ」
 ジェットファイヤーは背伸びをしながら、コンボイを見た。
 「司令官、これだけは忘れないでくださいね。本質が何であれ、マイクロンを助けたい気持ちと今こうしてプライムを大切にしている優しさは本物です。そしてマトリクスがあろうとなかろうと、俺達にとっての司令官は貴方だけです。俺達は信じていますから」
 「ジェットファイヤー…ありがとう、私は幸せ者だ。戦い好きだと指摘されて何も言い返せなかったのに、今も慕ってくれる仲間がいる。本当にうれしいよ」
 「司令官!俺だって司令官の事大好きですし、ずっとずっと一緒にいますからね!」
 突然後ろから聞き覚えのある声が聞こえたが何か崩れる音が聞こえた。ホットロッドだった。…が、崩れたピラミッドのように全員倒れていた。
 「全員降りろ!儂は重くてかなわん!」
 「そういわれましても…兄貴!降りてください」
 「そうだぜ!俺っちだって早く降りてぇ」
 「お前らもお前らでどけ!やれやれだ…」
 「全く何をしているのやら…」
 ラチェットは一人呆れながらも一人ずつ起こしていった。あの会話を聞かれたかと思うとコンボイもジェットファイヤーも気恥ずかしいものを感じたが、どこか嬉しそうに笑いあった。
 「笑わないでくださいよ~司令官、副司令…」
 「あはは、すまないね」
 「傑作ですよ、これは」
 副司令、あんまりです…というホットロッド達の泣き言はその直後の大笑いでかき消された。
 ジェットファイヤーと思い出話をした日からさらに数週間。リハビリの甲斐あって漸く復帰することができた。体の色は程なくして元の色に戻り、ラチェットは首をかしげたものの、色の変化が身体の変化に繋がる訳でもなかったらしく、コンボイは何か気にしている様子でもなかった。
 「確かに私はスタースクリームとメガトロンの最期を目の当たりにしてショックを隠せなかったし、何もかも失って生きる気力すら失くしたこともあった。けど、本性を知ってなお、慕ってくれる仲間がいる。信じてくれる仲間がいる。それがどれだけ大切なことか、この数週間で学んだよ」
 「俺はいつだってあなたに従うまでですよ、司令官」
 後書き
 リクエスト「司令官&副司令」
 コンボイとジェットファイヤーメインのSSです。最終回であの真っ黒でボロボロになった後、どうして復活(決意?)したか、という流れです。出会い話も書いちゃいましたが。ジェットファイヤーはコンボイを助けに行ったと思います、飛べますし。
 ジェットファイヤーは散々なあだ名をつけられていますけど、39話でコンボイの死を目の当たりにして復讐を自制している事やホットロッドを支える兄貴分としてしっかりしていると思うんですけどね。ヒュドラキャノンのバリア解除タイミングだってしっかり分かっていたんだし。正反対な性格だけど信頼関係バッチリ。コンボイは完璧な司令官じゃないってのを描きたかった。どこかもろい感じ。でも越えていく強さがある。戦い好きだけどスタースクリームを受け入れる懐の深さは嘘じゃないと思うし、プライムがあれだけ懐いているんだから大丈夫!
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