捧げものです。リクエストは「高虎と幸村」「饅頭・手ぬぐい・焼酎のいずれかを入れる」です。女性向けな描写があるかもしれないので閲覧注意。
「長政様。新しい家族を迎えたことを報告します」
吉継は徳勝寺に幸村を連れていた。こうして誰かを連れて長政の墓参りをするのは初めてかもしれないと本人も思っていた。
「あの…初めまして、長政殿。吉継殿の娘婿、幸村です」
「そこまで行儀よくしなくても大丈夫だ…ん?」
気配を感じ取り、振り返ると高虎がいた。
「久しぶりだな、吉継。って、なんで真田の弟がいる?」
「幸村と呼べ、高虎」
やけに刺々しい態度だったが無視。ひとまず高虎は墓の主を前に手を合わせた。
「そっちは元気でやっているみたいだな」
「立ち話じゃ難だから宿へ戻る。お前も来ないか?」
「悪いな、遠慮なく上がらせてもらうぞ」
妙な組み合わせになったものだと高虎は思いながらも二人に同行した。
因みにその頃の真田家周辺の面々は相変わらず三成の部屋を集合場所にしていた。
「幸村がいないからって落ち込むな」
「吉継に取られた…」
幸村は吉継と一緒に近江に行ってしまったため、信之はグダグダだった。弟の妻は吉継の娘でその事を伝えたい人がいるとの事で連れて行きたい、と申し出たときは驚いたが、幸村直々のお願いに押されてしまい承諾した。
「取られたって大げさだぞ」
「兄弟愛も大きすぎますな、信之殿」
そして八つ当たりがでかくならない事を祈る左近がここにいた。
(吉継さん、幸村。豊臣の屋敷が殿の部屋全壊だけで済まない前に戻ってきて…)
三成の部屋は壊れるの前提の願いかよ、あんた。
―宿。吉継は高虎も一緒に泊まらせることを主に伝えるため、退室していた。
「なるほど。今のお前は娘婿という事か」
「はい。妻は怖いもの知らず過ぎて娘の自分は偶に怖い、とぼやいていますがとても優しい方だと思っています」
十中八九こいつの兄貴の気配だな、と突っ込みたいが飲み込んだ。吉継経由でしか聞いていないが(そこまで面識もない)、幸村の兄・信之はかなり弟が好きで豊臣方も呆れるほどの事だ。目の前にいる幸村は疎いのか、その気配は分かっていないようだ。吉継が言うには、幸村は純粋に信之を尊敬しているが変な所で甘えん坊らしい。
「そうか…。因みに吉継は昔、察しは良いが諦める所があったぞ」
「え?」
幸村は目を丸くした。こんな表情をするのだな、と高虎は冷静に思った。
「だが長政様と出会って変わった。流れに逆らうことも悪くない、と」
「義父上が…」
「そうだな、後はお前と娘の仲も喜んでいるのも分かる。無表情だがどこか嬉しそうにしているのもな」
「高虎殿は義父上と本当に仲が良いのですね…あ」
浅井家にいた頃を幸村は知らないため、高虎の話は新鮮に感じていたが彼は高虎の手ぬぐいに視線が行っていた。
「どうした?」
「襟巻がほつれていますから繕いますけど…」
「これは手ぬぐいだ!!三尺手拭!!襟巻じゃねえ!」
高虎の叫びは宿全体に聞こえるほどだった。宿の手配を終えて戻ってきた吉継は真っ先にうるさい、と突っ込んだのは言うまでもない。
「すまねぇ…叫んじまって。繕ってもらって悪いな」
「いいえ。はい、直せました」
高虎は幸村の手先が器用なのは聞いていたが愛用の手ぬぐいのほつれが殆どわからなくなっていたのを見て、それを実感した。
「愛用しているのが良く分かります」
「…お前良い奴だな。手ぬぐいは良いものだぞ」
「は、はい…」
幸村の手を握りしめながら高虎は手ぬぐい講義を始めた。だが今までのクールな態度がぶっ飛んでいたので幸村は反応に困っていた。
「だから手ぬぐいをどこかにしまっ…」
「お前の手ぬぐい熱はうるさい」
吉継は遠慮なしに高虎を采配で殴り飛ばした。
「いってーなー!いきなり采配で殴るな!!」
「少しは自重しろ」
「義父上、あまり采配で殴るのは…」
「殴った所で死なないから大丈夫だ」
幸村の心配をよそに酷い事を言う吉継に高虎はぐっとこらえた。さっきの醜態を繰り返したくはない。
「折角梅の花が咲いているというのに、手ぬぐいの話で一日を終わらせるのは無粋だぞ」
「悪かった!じゃあ今夜は梅の花を見て食事を楽しもうじゃないか」
二人の遠慮ない間柄を感じ取った幸村は楽しそうに笑った。
なお、この日の夜に酒を飲んで幸村はすぐ倒れてしまい(幸村には相当弱い酒を出したにもかかわらず)、吉継は慣れた感じで寝かしつけた反面、高虎は寝言と下戸の両面で呆れてしまったのはまた別の話。
おまけ
信之「幸村ーおかえりいいい!」
幸村「兄上、くすぐったいです。ただいま帰りました」
稲姫「信之様、興奮しすぎですよ」
信之「は、すまない!」
吉継「どうやら屋敷は無事で済んでいない感じだな」
三成「…客室のいくつかが壊された!!俺の部屋も半壊に…」
吉継「で、左近は寝込んでいる、と」
三成「全治3か月だ」
兼続「信之殿の幸村愛が強すぎて屋敷が全壊する勢いだったな…あいててて」
三成「お前も腕の怪我が凄かったな」
兼続「まあ半月で治るのなら有難いものだ」
幸村「兄上…」
信之「幸村…そんな目で見ないでほしい」
幸村「暴れるのはダメですよ」
信之「ごめんなさい」
稲姫「信之様を止めるのは大変だったわ。父上も参加したのよ」
吉継「信之、お前はバカか?」
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